津軽出身の僕が勧める太宰治の "タダで読めるクッソおもろい短編" 4つ
高校生の頃、学校がちっとも面白くなかったので授業中に小説ばかり読んでいました。授業をまったく聞いていない僕に憤りを覚えた教師たちは、その本を度々僕から取り上げるのでした。ある日、国語の教師に「それならば、あなたはこの本よりも面白い授業をしているのですか」と尋ねると、「学校の授業なんて面白いものじゃない」と言われました。
嫌な生徒だったと思います。
それでも、その質問のあとからは本を没収されることはなくなりました。僕が読んでいたのは太宰治という人が書いた女生徒という本でした。
太宰治といえば、人間失格や斜陽のような長編小説が有名ですが、太宰の本当の面白さは短編や中編にあると思います。走れメロス? 津軽? それも素晴らしい作品ですが、今日は津軽出身の僕のオススメをどうか見てやってください。
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オススメ短編4選
5選にしようと思ったけど短編と言えるかどうか微妙なのが多かったので4選。
女生徒
私たち、いつまでも、恥ずかしいスッポカシをくっているのだ。私たちは、決して
刹那主義 ではないけれども、あんまり遠くの山を指さして、あそこまで行けば見はらしがいい、と、それは、きっとその通りで、みじんも嘘 のないことは、わかっているのだけれど、現在こんな烈しい腹痛を起しているのに、その腹痛に対しては、見て見ぬふりをして、ただ、さあさあ、もう少しのがまんだ、あの山の山頂まで行けば、しめたものだ、とただ、そのことばかり教えている。きっと、誰かが間違っている。わるいのは、あなただ。
引用元:青空文庫
太宰お得意? の女性口調の独白体で書かれた短編。
ある女生徒が朝起きてから寝るまでの話。僕的には太宰治の最高傑作です。
周りの大人に振り回されながらあれこれ考える女生徒の心情は、受験だ進路だとうるさく言われていた高校生の僕の心情にとてもマッチしていました。当時の僕は、良い大学に入れば素晴らしい人生を送れる、というようなことを平然と宣う教師に心底辟易していて、顔面に唾を吐きかけてやりたいくらいでした。いま、この吐き気がするほどつまらない場所に居て、養鶏場みたいに飼育されているのに、ここで頑張れば未来が拓ける、可能性が広がるなんてよく言えたものだと思いました。あなたは学校と家をただ往復しているだけじゃないか。
という思いをこの女生徒という小説が代弁してくれているように当時は思いました。実際はそうではないのかもしれない、というか絶対に違うんですけど、ともかく、この小説を読んだときは僕にも良き理解者が現れてくれたのだと、なんとなくそういうふうに思いました。
青空文庫:太宰治 女生徒
駆け込み訴え
これが私に、一ばんふさわしい復讐の手段だ。ざまあみろ! 銀三十で、あいつは売られる。私は、ちっとも泣いてやしない。私は、あの人を愛していない。はじめから、みじんも愛していなかった。はい、旦那さま。私は嘘ばかり申し上げました。私は、金が欲しさにあの人について歩いていたのです。おお、それにちがい無い。あの人が、ちっとも私に儲けさせてくれないと今夜見極めがついたから、そこは商人、素速く寝返りを打ったのだ。金。世の中は金だけだ。銀三十、なんと素晴らしい。いただきましょう。私は、けちな商人です。欲しくてならぬ。
引用元:青空文庫
太宰が口述して、妻に筆記させたという作品。「淀みもなく言い直しもなかった」というのだから才能がぶっ飛んでるとしか言えません。
キリストを裏切ったユダが独白するというスタイルで、愛と憎しみと裏切りと殺意がグチャグチャになって次から次へと流れ出てくるような小説です。段落分けもほぼなく、本当に一息で吐き出したような感じがします。
キリストを売って金を得る場面を愛憎織り交ぜて語っているのですが、僕には心中に失敗して自分だけが生き残ってしまった太宰の心情を吐露しているように思えてならないのです。それでいてキリストとして描写される「あの人」の性格も太宰自身に非常に似ているような気がします。
青空文庫:太宰治 駈込み訴え
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帰去来
母も叔母も、私の実力を一向にみとめてくれないので、私は、やや、あせり気味になって、懐中から
財布 を取り出し、お二人の前のテエブルに十円紙幣を二枚ならべて載せて、
「受け取って下さいよ。お寺参りのお賽銭 か何かに使って下さい。僕には、お金がたくさんあるんだ。僕が自分で働いて得たお金なんだから、受け取って下さい。」と大いに恥ずかしかったが、やけくそになって言った。
母と叔母は顔を見合せて、クスクス笑っていた。私は頑強にねばって、とうとう二人にそのお金を受け取らせた。母は、その紙幣を母の大きい財布にいれて、そうしてその財布の中から熨斗袋 を取り出し、私に寄こした。あとでその熨斗袋の内容を調べてみたら、それには私の百枚の創作に対する原稿料と、ほぼ同額のものがはいっていた。
引用元:青空文庫
恩人の北さん、中畑さんと勘当されている青森の実家に10年ぶりに帰郷する話。
太宰が生家に帰る話は「津軽」や「十五年間」などがありますが、この帰去来の淡々とした感じが一番リアリティがあって好きです。ふるさとに帰るときは大抵このくらいあっさりしているものだと思います。「津軽」で乳母に会うシーンなんて感傷的すぎて「うーん、なだかなぁ」と思ってしまいます。
うまく方言が喋れなかったり、妙に他人行儀になってしまったりしながら、段々と家族のようなものを取り戻して、寂しくなる前にまた去っていく。そういう帰郷があと何度できるだろうかとふと考えてしまう。
この短編につづく形の「故郷」もオススメ。
畜犬談
「おい。へんなものが、ついてきたよ」
「おや、可愛い」
「可愛いもんか。追っ払ってくれ、手荒くすると喰いつくぜ、お菓子でもやって」
れいの軟弱外交である。小犬は、たちまち私の内心畏怖の情を見抜き、それにつけこみ、ずうずうしくもそれから、ずるずる私の家に住みこんでしまった。そうしてこの犬は、三月、四月、五月、六、七、八、そろそろ秋風吹きはじめてきた現在にいたるまで、私の家にいるのである。
引用元:青空文庫
ツンデレ太宰が犬を飼う話。
太宰治の中期の作品。暗いところがなくて本当に健全な作品です。こういう明るい話をもっと残していれば暗いイメージもつかなかったかもしれません。
何も考えずに読んで単純に楽しめます。特に犬が好きな人は。
青空文庫:太宰治 畜犬談 ―伊馬鵜平君に与える―
まとめ
人間失格が長くて暗い話なので、太宰治を避ける人が多いような気がします。すぐ自殺とか心中するしね。単純に古くて読みにくいということもありますが。地元(太宰治出生地の隣町が僕の田舎です)にいた頃でさえも太宰治が好きという人はあまりいませんでした。
でも結構明るい話もあるし、人情深いところもあるんだよってことで。青空文庫で全部タダで読めるから読んでみて下さい。
ではまた。
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