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シドニー生活を発信するブログ

オーストラリアを舞台にした日本人作家の本 5選

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僕は海外に渡航する際は、本を読んで現地の生活や文化に思いを馳せたいと思うタイプです。

しかし僕が現在暮らしているオーストラリアを舞台にした本はとても少ない!

さらに現地の生活が描かれていたり、文化的な教養を得られるものというのは更に少ない!

(本の描写をすべて鵜呑みにしてしまうのも考え物ですが)現地の生活の様子が垣間見えるような本が僕は読みたい! と思ったのが2018年の年末くらいでした。

それからオーストラリアに関する小説やエッセイ、紀行文はないかと探し回って、ある程度読み終わったのでそれをまとめてみようというのがこの記事です。

 

オーストラリアを舞台にした日本人作家の本

木曜島の夜会 / 司馬遼太郎

オーストラリアとニューギニアの間にあるトレス諸島。その中のひとつ、木曜島では、明治時代から太平洋戦争前まで、海底にいる白蝶貝を採るために日本人ダイヴァーが活躍していた。サメの恐怖、潜水病との戦いに耐えつつ、異国の海に潜り続けた男たちの哀歓と軌跡から日本人を描き出した

引用元:Amazon.co.jp

 

明治期から太平洋戦争前後までに行われていた白蝶貝採取と深海に潜る日本人ダイバーを描いた作品。小説というよりは紀行文のような印象を受けます。というか司馬遼太郎の「街道をゆく」っぽい感じがです。

 

1901年からの白豪政策、そしてオーストラリアにとっては仮想敵国だった日本が本当に敵国になった太平洋戦争。そんな時勢でもオーストラリアで働く日本人がいました。なぜ外国で働くのか、なぜ深海に潜る危険な仕事をするのか、何を考えてオーストラリアに来たのか、当時の日本人の価値観を垣間見ることができます。

Thursday Islandというオーストラリア人にも知られていない島に日本人の墓碑がたくさん並べられている。そんな島が実在している。その事実だけで歴史の面白さに心躍ります。

 

木曜島とは離れますが、同時期に白蝶貝採取の盛んだった西オーストラリアの都市ブルームと多くのダイバーの出身地である和歌山県太地町が姉妹都市になっています。勿論姉妹都市締結のきっかけは白蝶貝採取。

 

 

さようなら、オレンジ / 岩城けい

オーストラリアに流れてきたアフリカ難民サリマは、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。人間としての尊厳と“言葉”を取り戻し異郷で逞しく生きる主人公の姿を描いて、大きな感動をよんだ話題作。第8回大江健三郎賞、第29回太宰治賞受賞。

引用元:Amazon.co.jp

オーストラリア在住20年の作家岩城けいのデビュー作。

アフリカからの難民であるサリマが日本人のハリネズミ、イタリア人のオリーブと出会い、オーストラリアで生活すること、第2言語を学ぶということ、異国で子供を育てるということ、もう戻れない故郷のこと、などなど尽きることのない悩みや問題に直面し、必死に考えながら生活していくお話。

 

1975年、ベトナム難民の受け入れを開始して以来、オーストラリアは白豪主義から多文化主義へと変動していきます。しかし多文化主義とはいっても英語が話せないアフリカ系難民のサリマが働ける場所は限られています。出会う人も職場にいる自分と同じような難民や語学学校の外国人ばかり。現地人に受け入れられているとは言い難い状況です。

第2言語を学ぶことやオーストラリアでの生活の大変さ、辛さを僕も経験しているのでものすごく共感して読んでしまいました。

 

「帰ろうと思えばいつでも帰れる場所がある日本人」よりももっと過酷な状況に置かれているにも拘わらず、子供のために英語を学び何かを伝えようとしているサリマの姿がいじらしいくらいです。

もっと英語を勉強しないとなぁと思う1冊。

英語で勝負しなければならない国でこの先も生きていかなければなりません。お金も地位もない私たちがここで、ひとりの人間として扱ってもらうためには、言葉に頼るしかありません。

 

 

Masato・Matt / 岩城けい

「スシ!スシ!スシ!」いじめっ子エイダンがまた絡んでくる―。親の仕事の都合でオーストラリアに移った少年・真人。言葉や文化の壁に衝突しては、悔しい思いをする毎日だ。それでも少しずつ自分の居場所を見出し、ある日、感じる。「ぼくは、ここにいてもいいんだ」と。ところがそれは、母親との断絶の始まりだった…。異国での少年と家族の成長を描いた第32回坪田譲治文学賞受賞作。

 引用元:Amazon.co.jp

 

日本から移住してはや5年。父と二人、オーストラリアに暮らす安藤真人は、現地の名門校、ワトソン・カレッジの10年生(16歳)になった。Matt(マット・A)として学校に馴染み、演劇に打ち込み、言語の壁も異文化での混乱も、乗り越えられるように思えた。そこに、同じMattを名乗る転校生、マシュー・ウッドフォード(マット・W)がやってくる。転校生のマット・Wは、ことあるごとに真人を挑発し、憎しみをぶつけてくる。「人殺し! おれのじいさん、ジャップに人生台無しにされたんだ!」。第二次世界大戦、日本とオーストラリアの、負の歴史。目をそむけてはならない事実に、真人――マット・A――は、自らの<アイデンティティ>と向き合う。人種が、言語が、国が、血縁が、歴史が、17歳の少年の心と体を離さない。

引用元:Amazon.co.jp

MasatoとMattは別の本ですが、シリーズものなので一緒に紹介します。作者はさようなら、オレンジの岩城けい。

家庭の事情で日本からオーストラリアに移住した真人君がオーストラリアで異文化と触れながら成長し、どんどんオーストラリア人っぽくなっていく話。

Masatoは小学生、Mattは高校生の内容です。オーストラリアの学校ってこんな感じなのか、と想像できるようになっていい感じ。大学進学とか飛び級とか特待生制度とか日本の考え方とは違う部分がかなりあります。

 

オーストラリアにどんどん染まっていくと同時に、どこからどうみてもアジア人な見た目の自分というギャップに悩むあたりが妙にリアル。

多文化主義のことをマルチカルチャーではなくマルチコミュニティだと真人君が言っているあたりでシドニー在住の僕はものすごく共感してしまいました。移民を受け入れて多文化だといっても、お互いが理解しあっているかというとそうではないんですよね。文化が多数存在してはいるけれどミックスはされていないわけです。

 

Mattで登場する演劇科のキャンベル先生が名言製造機で僕の大好きなキャラクターでした。

リサーチが欠かせないのは、知ろうとする絶対の意志なしに、見ず知らずの他者の喜びや苦しみを感じとることも、ましてや、他者を演じることなど、到底できはしないからだ

 

 

隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 / 上橋菜穂子

独自の生活様式と思想を持ち、過酷な自然の中で生きる「大自然の民アボリジニ」。そんなイメージとは裏腹に、マイノリティとして町に暮らすアボリジニもまた、多くいる。伝統文化を失い、白人と同じような暮らしをしながら、なお「アボリジニのイメージ」に翻弄されて生きる人々…その過去と現在を、アボリジニの視点と白人の視点を交差させつつ、いきいきと描く。多文化主義オーストラリアのもうひとつの素顔

 Amazon.co.jp

 

作家であり文化人類学者である上橋菜穂子のノンフィクション。

白豪主義に終止符をうち、多文化主義を謳いながらも実際には社会、経済のベースは白人文化にあるオーストラリア。迫害され、保護され、受け入れられてきた先住民族であるアボリジニたちは何を考えてどのように生活してきたのか。そんなことを学べる1冊。

 

失業保険を貰って昼間から酒を飲んでいるアボリジニ。彼らがなぜそんな生活をしているのか、その謎を解く鍵となる本です。

 

この本のすごいところはアボリジニはかわいそうだ、白人にこんなにひどいことをされた、という観点で書かれていないことです。基本的にフラットな視点で描かれています。良い悪いという観点ではなく、「こういう文化、生き方が存在している」というありのままを伝えています。

アボリジニでもなく白人でもない日本人だからできる書き方だと思います。それが見たものをそのまま描写するという文化人類学の面白さなのではないかと思います。

文学における写実主義にも似ていて文化人類学はちょっと勉強してみたいなと思いました。

 

例えばバチカン市国の聖ピエトロ寺院の下にウラン鉱脈があったとして、寺院をぶち壊すことを計画する人がいるでしょうか? そして、なぜ、少数の先住民の聖地ならば、「経済」を理由に「しかたのないこと」にされてしまうのでしょうか?

 

 

熱風大陸 ダーウィンの海をめざして / 椎名誠

熱気70℃、死の灼熱以外何もないオーストラリア砂漠。アラン・ムーアヘッドの『恐るべき空白』に魅せられたぼくたち、あやしい探険隊は、4WDを駆ってアデレードからダーウィンをめざして内陸縦断の旅に出た。見わたすかぎりの地平線、これこそ狂気的広大の極北。なんだか熱い胸さわぎがしてこないか?

引用元:Amazon.co.jp

もはやオーストラリアのロードトリップの定番ともなった大陸縦断の元ネタ(多分)

1988年刊行のエッセイ。

水曜どうでしょうでも紹介されてダーウィン-アデレード間をハイエースを借りての縦断は完全にワーホリの定番になったといえます。

 

灼熱の大地を仲間と一緒にビールを飲んだり喧嘩をしたりしながらとにかく走るという誰もが一度はあこがれてしまうような旅の本です。

椎名誠の「外国通のオレ」感とひと昔前の旅ブログのような文体は気に入りませんが、内容は非常に面白いです。(きっとひと昔前の旅ブログ群が椎名誠のパクリなんだろうな)

 

現在ではかなり道路事情も良くなってこの本のように辛く苦しい旅にはならないらしいですが、オーストラリアでロードトリップをする際には読んでおきたい1冊。